Take You Away 4
「光輝が曲書くの!?どんな曲書くつもり?実は歌詞は書かせてもらうつもりだったから、既に書いちゃった」
『でかした!俺は洋楽寄りの曲書いてみたいかも。そしたら歌詞、ちょっと英語に直すかも知れないけど』
「わ〜。今まで歌ってきた歌と全然違う感じになりそうで楽しみ〜!」
『悠里とのデュエットで、かつ俺のデビューの歌だしな。俺もすげぇ楽しみ』
最近の悠里の寝る前の習慣は、長風呂でリラックスすることではなく、光輝との電話になっていた。
といってもそれは15分くらいの時もあれば1時間ほどの時もあって、悠里の夜がどれほど空いているかで電話時間は左右された。本当ならば会って顔を見て話をしたいけれど、そのような時間はたくさんはない。
「そういえば、今週の土曜日は5時以降何もないんだ。光輝時間ある・・・?」
『ないわけないだろ。どこか行くか?』
「わたしカラオケ行きたい!光輝が歌ってるの聴いたことないよ」
『あー、そういえばそうだな。俺も生「橘 悠里」聴きたいし、カラオケにするか』
「うん!」
『密室だしな・・・』
「え」
ふたりは忙しくなる一方、うまく時間を見つけて会ったり電話したりと、なかなか順調に恋を温めていた。
デュエットの企画もいよいよ終盤を迎えて、光輝のデビュー曲である「Take You Away」のレコーディングも無事に済んだ。
それまでの道のりは長いようであっという間に過ぎ、悠里も貴重な経験を得たと感じていた。自分のデュエット相手が曲を手がけているために、本当に一から創作に関わることができて、色々なものを見聞きすることができた。何より、仕事でも光輝と一緒にいることができたのは何倍も楽しく、わくわくした。
そしてデビューシングル発売直後の、初お披露目となる音楽番組への出演が、ついに明日に迫っていた。
その日の夕方、悠里と光輝は事務所で所長からの激励(言葉そのものだなと悠里は思う)を受けてから、すずかに送ってもらっていた。悠里のマンションに着いて、光輝は悠里を見送りについてくる。
「どきどきする?」
「んー。なんか実感湧かない」
「そっか。わたしが緊張しそう・・・バレたらどうしようーとか。光輝にもファンができるわけだし・・・」
「ふんふん、そういうことね。それ言ったらおまえ、俺も同じこと言えるんだけど。悠里にもファンがいるわけだし?俺だけのじゃないんだもんなー」
「光輝だってそうなっちゃうじゃん」
「俺はなんないね」
人に見られるといけないから、部屋の玄関口でふたりは会話を続ける。一応すずかが車で待っているのだが、光輝はあまり急ぐ様子がない。断言した光輝は本当に誰のものにもならなそうで、くすりと悠里は笑いを漏らした。愛しい気持ちがあふれて、それが染み込むように体中へ浸透していく。
それを悟られるのはちょっと悔しかったけれど、そこを少しだけ譲って、悠里はぽつりと呟いた。
「・・・・・・じゃあわたしもなってない」
「・・・悠里。そんなかわいいこと言うと、ガマンやめて喰っちゃうよ?」
「ざっ、残念でしたーっ。下ですずかさん待ってるんだから、もう行きなさいね?」
「そのまま行くわけがないし、行かすわけもないよなぁ♪」
「・・・・・・ちくしょぅ」
その5分後、痺れを切らしたすずかが「帰るなら降りて来やがれ!」とお冠の電話を寄越してきたのだった。
「今日は、今週デビューされたばかりのMitsukiさんにいち早く来ていただいています!こんにちは、Mitsukiさん!」
ゴールデンタイムに生放送していて視聴率も悪くない、音楽番組「GIG NIGHT」が遂に始まった。毎度人気のアーティストやグループが出るこの番組は、話題性のある新人アーティストもすぐにピックアップすることで余計に注目度が高い。光輝とそのデュエット相手である悠里も、すぐに招かれていた。
期待の目の観客、目当てのアーティスト以外関係ないというような観客、さまざまだが、驚くに違いないと悠里は確信していた。曲も光輝の歌唱力も、今の日本ではあまり見られないものだろうと、贔屓目抜きで思う。
「Mitsukiさんのデビュー曲はなんと橘 悠里さんとのデュエットで、ラジオでのオンエア率もなかなかという注目度の高さですが、お楽しみは後ほど!ということでトリをMitsukiさん、橘さん、よろしくお願いします!」
「「 よろしくお願いします 」」
なんだか妙に緊張してはいるものの心の別の部分では落ち着いていて、悠里は変な気分だった。どれもこれも隣にいる光輝がもたらすものなのだから、苦笑してしまう。
視線に気づいた光輝が、ぱちんとウィンクをしてきた。悠里はがーっと体の中の血が顔に集まるのがわかったが、ひとり目の人が歌い始めていてあたりは暗くなっているし、見渡して誰も見ていないことにほっとする。
「なんで固まるわけ?」
「日本ではそんなことしないのよっ」
「ふーん?もったいない」
「何それ・・・って、光輝!」
「んー?誰も見てない見てない」
カメラからも人の目からも隠れて見えない手元は、手を繋ぐのにはちょうど良くて。こんな状況でやめてほしいほど、光輝は甘い笑顔を悠里に向けてきた。
(・・・人の気も知らないで)
人に見られやしないかとはらはらするのと同時に、周りに知られてはいけないことをしているという気持ちが、余計に悠里の胸を愛しい気持ちで切なくさせる。障害のある恋愛が燃え上がりやすいというのはこういうことなのか、と妙に納得してしまった。
自分から解くには温かくて優しすぎる手を、悠里はそっと握り返した。
これからもきっと、この手を離すことはない。
それから時間は経って、番組も終わりに近づいてきた。今歌っている女の子のグループの次が、悠里と光輝の番だ。
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