Take You Away 3

 

 

 

にこっと笑った光輝は悪びれた様子もなく、かかかっと赤く染まっていく悠里を眺めている。


「かわいかったのでスターター代わりにいただいちゃいました。・・・って悠里、固まりすぎ固まりすぎ」

「び・・・っ。びっくりした・・・・・・何すんのよ急に・・・」

「予告したら拒否るだろ」

「当たり前でしょっ!はぁー・・・まだ心臓びくびくしてるよ・・・初めてだったのにぃ・・・」

「どきどきだろ。てかマジ!?てことは今までに彼氏いたことないの?」

「びくびくです!ってうるさいわね・・・誰も好きになれなかったんだもん、しょうがないでしょ!?18からは忙しくしてたし」

「ふぅん・・・。俺が忘れられなかったとか?」


何か先ほどから寿命が縮むようなことばかりがこの身に起きている気がするが、キスもこの質問もアメリカ文化の一環と無理やり思うことにして、悠里は無視で通すことにする。・・・通用するかどうかは疑問だが。
心臓がどくどくしているのはどきどきしているからなのか、驚いたからなのか、悠里に区別はつかなかった。


「・・・いい加減何か頼もうよ」

「うん、悠里が答えてからな」

「・・・・・・わたし一番高いやつ食べてやる」

「うん、悠里が答えたらな」

「・・・・・・・・・じゃあなんで、光輝はあんなことしたのよ」

「なんでって。おまえそれ聞くかよー。それは俺が悠里のこと好きだからに決まってるだろ」


いとも簡単に言ってのけた光輝に、え、と悠里は再び真っ赤になって固まってしまった。・・・不覚だ。これがアメリカ育ちなのだろうか、と頭の隅で思いながら、本気で取るべきか否か判断しかねていた。
それに気づいた光輝が、悠里の手からメニューを取り上げて真っ直ぐに悠里を見てきた。いや、今までと同じだけれど、悠里がその目に惹きつけられたのかも知れない。その真っ直ぐな目が冗談を言っていなくて、悠里は少し驚いてしまう。このような顔をする光輝は、未だかつて見たことがなかった。


「信じてくんないの?確かに何年も離れてたら、気持ちもだんだん薄れてったよ。気づいてなかっただろ?小学生の頃に、俺がおまえを好きだったこと」


驚きを隠せないまま、無言で首を横に降る悠里に苦笑してから、光輝は再び続ける。


「でも約束はずっと覚えてた。歌が好きなことも変わらなかったし。そんでさ、ある日偶然知ったんだよ。『ゆうり』って名前のアーティストがデビューしたって。すげぇびっくりして、日本の友達に頼んでそのアーティストが出てる番組を録って送ってもらったんだ。そしたらやっぱり悠里でさ、目がすっごい印象的だったんだよな。俺を覚えててくれてる、待っててくれてるんだ、って一目でわかって嬉しかった」

「・・・当たり前でしょ、約束したんだもん」

「それでもな。それからは向こういるのももどかしかった。今すぐにでも会いに行きたかった。けど約束を果たすなら、俺もちゃんとしてたかったし。悠里が待っててくれてるって思うと、マジ力出た。恋しかった。今喋ってて、あーやっぱ好きだって確信した。変わった部分も、変わってない部分も。まだ見せてくれてない部分だって好きになれる自信ある」


光輝が恥ずかしい言葉の散りばめられた語りをごくごく真剣に終えて、しばらく間が開いた。
けれど悠里の方からは一向にコメントが返ってこない。
本当にこいつ聞いてたのか、と光輝がいぶかしげに覗くと、俯いていた悠里はまた顔を真っ赤に染めて光輝を睨んできた。威力を感じない上にとびきりかわいく思えてしまうあたり、もう恋の病だなー、と光輝はのんびり思う。


「それをいっちばん先に言えってのよ!」

「お?」

「あーあ・・・これだから手の早い国で暮らしてた人は・・・風情も何もあったもんじゃない」

「・・・言葉と表情が、かみ合ってないよ?」

「うるさいっ」

「ハイハイ、わかったから。ほらもう頼むよ。座ってから何分経ったと思ってんだよ」

「あんたが悪いんでしょー!」

「ちなみに、一番安いのでお願いね。俺金ないから」

「誰もあんたに払わせないわよーっ」

「嘘だってば。あはははこんなとこは全然変わってないやー」


こうしてふたりは感動の再会を果たしたけれど、結局昼食の2時間の間に企画の話はほとんど出なかった。というのも、10年も離れていた間の互いの話に花が咲いて、それどころではなかったのだ。
そして悠里は気づいた。というか、光輝に気づかされたのかも知れない。自分は光輝が好きなんだと。
けれど一度認めてしまえば、これまで『約束』が気になって仕方がなかったのも、悠里には納得がいった。
それが小学生の頃からのものなのかはわからなかったけれど、それはもうどうだっていい。
・・・少々、押された感が否めないが・・・。

すずかと悠里の約束の2時までは本当にあっという間で、時間が近づくたびに悠里は少し心細そうだった。悠里はこれでも忙しい身だし、デュエットの企画で会うことがあるとはいってもそれはプライベートではない。
再会の約束を思い出していた時も辛かったけれど、光輝に会えたと思ったら今度はこんな辛さを味わうとは、悠里は全然予測していなかった。
好きになること自体まったく予想外だったというか、悠里の考えの範疇外だったのだけれど。


「何ぶーたれてんの。ほれ、これ俺の番号にメアドに住所。夕方くらいにはいつも戻ってるから、いつでも来ていいよ」

「ありがと。えっと、これがわたしのね。住所ここ・・・って言ってもいついるかわかんないけど・・・」


互いに番号などを交換してもやっぱり少ししょんぼりしている悠里に、光輝はしょうがないなと思ったのか、先ほどのように身を乗り出して悠里のあごを捕らえると、かすめるようなキスをして囁いた。


「悠里が会いたいって時はいつでも会いに行くから。だから今はこれで勘弁して?もっと深いやつは人目があるから嫌だろ?」

「・・・公共の場ですんなバカっ」


にやにやと見てくる光輝の顔を手で押し戻して、悠里の方から席を立った。会計を済ませなければ。もうすぐすずかの来る時間だ。
現金かも知れないけれど、光輝の言葉とキスのお陰で悠里は元気が出たような気がする。それは言わなかったが光輝にはしっかりわかったようで、それすらも以心伝心のようでくすぐったかった。

ふたりがロビーですずかを待っていたら、時間通りでなくてもいいのに、彼女は礼儀正しく2時ちょうどにやって来た。


「初めまして、Mitsukiさん・・・でいいのかしら?」

「光輝でいいですよ、初めまして新崎さん。悠里ちゃん貸していただいてありがとうございました」

「ふふふ、いいのよ〜。こんな子ですけど、仲良くしてあげてくださいな」

「ちょっとふたりとも何よそれ、わたしが物で子供みたいじゃない」

「相手してもらえるかちょっと心配なんですけど・・・懐いてもらえるよう頑張ります」

「えぇ、アタシも微力ながらお手伝いさせていただくわ♪」

「・・・・・・」


どこからどこまでが本気なのかわからないやり取りに、しかも取引されているのが自分ということもあり、悠里は真っ先に疲れて口をつぐんだのだった。ふたりを無視して、すたすたと駐車場のある方向へと歩き出す。


「あっ、ちょっと!ちゃんと挨拶なさい!もーあの子はっ。ごめんなさいね、これから嫌でも顔を合わさなきゃいけないと思うけど・・・本当に、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。そちらのプロダクションにもお世話になりますし。今後ともよろしくお願いします」


ふたりはそれから別れて、すずかは小走りに悠里を追っていった。それを見届けた光輝は折りたたみの携帯を取り出して、手早くメールを送信する。すぐに気づいてくれることを願ってから、光輝もその場を離れた。

 

マナーモードにしていた携帯がぶるぶるとバッグの中で震えている。悠里が急いで携帯を取り出すと、登録したばかりのアドレスからメールが届いていて。そこにはたった一言。


『夜、電話するから』

 

心がふるえた。

 

 


 


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