Take You Away 2

 

 

 

デュエット相手はアメリカ人。ということは、彼は英語を使う。
それはすなわち、歌も英語ということになるのだろうか。


「・・・・・・無理〜〜〜!!!」

「往生際悪いよ、悠里!」


運転中のすずかにぴしゃりと言われて、悠里はしぶしぶ大人しくなる。
歌は好きだが、英語となるとやはり、悠里は少し怖気づいてしまっていた。
コミュニケーションは別に問題ないと思う。間に通訳が入ってくれるだろうから(といっても肝心の通訳を置いてくれるかが問題だが)。
だが歌は違う気がする。文法ばかりという典型的な日本の英語教育によって、他の生徒同様悠里も会話や発音は自信がなかった。かといって今文を書けと言われても、それができるかははなはだ怪しい。
何とか他の部分でそれをカバーできるだろうか・・・。


「う〜・・・」


今日はデュエット相手との初顔合わせの日だった。
昼食を一緒するということになっていて、すずかが悠里のマンションまで迎えに来てくれて、目的のレストランへと向かう。


「だいじょーぶだってば!悠里は気にしすぎなの」

「気にするに決まってるでしょっ」

「まぁまぁ、ほんとに彼と顔合わすだけのインフォーマルなやつだから、大丈夫よ」


悠里は先ほどから軽くあしらわれてばかりで、その上すずかはにやにやとなぜか楽しそうだった。


「他人事だよね、すずかさん!」

「あ、それひどいっ」


そうこうしているうちに、車はレストラン前へと到着した。おしゃれな雰囲気というか外装がリッチで、普段なら絶対来ないようなレストランだ。だからきれいな格好をしろとすずかは言ったのか、と悠里は今更合点がいく。約束の12時まで後10分。


「じゃ、楽しんできてね♪」

「は!?」


悠里が車から降りると、にっこり笑ってすずかが手を振った。悠里が驚いている間もすずかはべらべらと喋り続け、悠里はこの展開についていけなかった。


「言ったでしょ、インフォーマルなやつだって♪アタシはちょいとミーティングがあるので2時にお迎えにあがりますぅ」

「ちょっ!ちょっと待ってよ!そんなの聞いてない!通訳もなし!?」

「何言ってんのよ。ほら、早く行って来なさい!お待たせしたら失礼でしょ。アタシの名前言えばテーブル通してくれるから。じゃあ2時にロビーでね♪」

「わたし英語できな・・・!」


呼び止める声も空しく、ぶるるんとすずかは去ってしまった。


(嘘でしょ・・・わたしにどうしろって言うのよー!!!)


とは思えど、いくら気が重くてもこれは仕事だ。いくらマネージャーが無責任に自分を置いていったとしても(これを言えば確実に殴られるだろうが)、自分で何とか対処しなければならない。
悠里は不安でしようがなかったが、とぼとぼとレストラン内へ入った。

テーブルへ通されている間も、緊張のどきどきと不安の動悸で頭が沸騰したようだった。ずっと悶々と考えながら歩いていたため、立ち止まってごゆっくりどうぞというウェイターの声に、悠里はやっと顔を上げた。
そこには。


「Hi」


そう言ってにっこりと笑う・・・日本人がいた。


「え、あの・・・・・・?」

(あれ?テーブル間違えたのかな・・・外人さんじゃないの?でも今ハイって・・・あれ?)


そう思ったのが顔に出ていたのか、目の前の青年はぷっと吹き出して、人懐っこい笑顔で言ったのだ。


「久しぶり、悠里」

 

 

 

ちょっと待ってくれ、と悠里は真剣に思った。
鼓動が早打ちするのをリアルに感じる。
あり得ない、絶対に。あり得ないはずだ・・・けれど、ひょっとすると、もしかしたら。
この10年間呼べなかった名前を、悠里は半信半疑で口にする。


「こう、き・・・?」


そう呼ぶと、ぱぁっと青年の顔が嬉しそうに笑った。
犬のイメージの強かった笑顔は今でも健在のようで、その笑顔を見た悠里は肩の力と、自分の中にあった悩みがいっきになくなるのを感じた。


「うそぉ〜〜〜。アメリカからって・・・光輝だったの・・・。やめてよ、すっごいびっくりしたじゃない・・・」


そうなると、すずかは相手が日本人だということを隠していたのか。だからにやにやしていたのだと、悠里はやっと気がつく。感動の再会よりも脱力感が勝っているあたり、自分も年を取ったのだろうかと思ってしまう。・・・まだ21歳になったばかりだが。


「でも悠里が約束覚えててくれて嬉しかったよ」

「え?そりゃ覚えてるわよ。光輝こそ、覚えててくれたんだね。忘れてたらどうしようって、少し思ってた」


高価なレストランにいるためかこぎれいな格好をしている、垢抜けた感じの光輝ー橋本光輝ーはメニューを手渡しながら、ちょっと不服そうに悠里を見てきた。


「忘れるわけないだろ。ただ、時間はかかったけど。俺さ、あれからも何回か引っ越してさ、最後に行きついた先がアメリカだったワケ。俺だってずっと歌いたかったんだぜ。日本には絶対戻る気でいたから、それまでの間は音楽の修行と売り込みしてました」

「そっか・・・。なんか・・・安心して今更嬉しくなってきた。あはは・・・会えてよかった〜〜〜」


今度こそ落ち着いて笑う悠里に一瞬目を見張ってから、光輝はちょいちょいと人差し指で「来て」の合図をする。ちょうど内緒話をする時のように。


「?」


それに従って悠里が顔を近づけると、急に視界が真っ暗になって、くちびるに柔らかい熱と耳にちゅっという音が届いた。視界が再び明るくなった時には、悠里は大きく見開いた目で、遠ざかっていく光輝の顔をやけにゆっくりと見ていた。

 

 


 


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