an ordinary day

 

 


「あー・・・・・・はまった」

あたしの隣で、紀由(きゆ)が気まずそーーーに言った。
あたしはそれをムシして、代わりに早足ですたすたと歩き出す。

「おいっ、ちえり!」

「なに」

こっち向いてくる紀由に見向きもしないで、あたしは淡々と答えて、淡々と足を進める。
紀由がちょっと困ってる様子が横から伝わってくるけど、だからってあたしの期限が直るわけなんてないじゃん!

だって聞いてよ!こうやって、デートの最中に呼び出しくらってさっさと行ってしまうのって、ほんっと毎度だし!仕切りなおししてる傍から緊急連絡入るわけだしね!なんでそんな頻繁に呼び出されるのよ!
あたしが怒るのも、ある程度仕方のないことだと思わない!?

 

でも、ほんとのほんとに怒ってはいるけど、それと同時にちゃんとわかってはいる。

・・・わかってる。
これは仕方のないことだって。
いつものことだし。
・・・そういうもんだって思ってしまえれば、ぜんぜん、どうってことないはず。

頭ではわかっていても、それでもやっぱり感情まではそうはいかないよ。
いつもこうやって紀由を困らせてる…そう感じてるのだって本当だけど、怒ってるのと、寂しいのと、意地っ張りな性格が災いして、あたしはいまいちうまく振る舞えない・・・。

 

あたしがいろいろと沈みこんでると、紀由は少し黙ってから済まなそうに口を開いた。

「ごめんちえり・・・ほんとにほんとに悪い。でも俺行かないと・・・」

うん。わかってるよ。そうだよね。

 

・・・別に、今バイバイしたからって、あたしも紀由も死ぬわけじゃないし(極端だけど)。
どうしても会いたくなったら、夜中でも早朝でも、押しかければいいんだし(ひとり暮らしだから、紀由以外誰にも迷惑かけないし)。
それに、これ以上紀由を困らせるわけにはいかない。

ほら、早く「いってらっしゃい」って言わないと。

 

「・・・何かおごらせるから」

あ〜〜〜・・・。やっぱあたしさいあく。
こんな風にしか言えないなんて、もう救いようがないわ。

でも、そう言ったあたしを見て紀由はちょっとほっとした顔になった。
あたしの頭をぽんぽんってして、「ほんとにごめん」の混じった苦笑いを向けて言った。

「わかった。絶対覚えとく」

「絶対だからね!かなり高いやつね!」

「高いやつはムリな」

「けち!!」

「はいはい。でも絶対何かおごるから。何食べたいか考えとけ?」

「・・・・・・。」

・・・・・・いつになるんだよ、それ・・・。
ちょっとだけそう思ってしまったけど。

でも。
あぁもうやっぱだめだ、あたし。
こんなって大きい手で頭撫でられて、笑顔向けられると。
どーでもいいやって思えるっていうか、今まで怒ってたのに苦笑が出てきそうになる。
・・・あたしの方が、よっぽど好きなんじゃない。

ムカつくから絶対言ってやんないけど。

「ほら!さっさと行ってくれば?」

出そうになってた苦笑を無理やり押し込めて、あたしは仏頂面で言ってやる。

「あぁ。じゃ行ってくる。帰ってきたら電話するから」

「わかったわかった。ほら、早く行って!」

紀由はもっかいあたしの頭を撫でてから、人ごみの向こうへ走ってった。

「行っちゃったー」

それにしても。

「ほんっと・・・めんどくさいやつ好きになっちゃったよなー・・・」

人ごみにまぎれて見えなくなった後姿を思いながら、あたしはひとりごちる。
でもそれって、紀由も思ってることかもしんないけどね。

「さて。買い物でもして帰ろうかなー」

あたしは、メインストリートに向かって歩き出した。

 

これがあたしの、ごくごく普通の一日。