フラットメイトの友達
10月も中旬になって、今のクラスにもクラスメイトとも打ち解けてきた。よく一緒にいる友達もできて、少しずつ大学生活も楽しくなってきた感じ。
わたしは高校2年からこっちにいるし、高校生なんて若い世代のスラングも聴いてきたから、英語については思ってたより苦労はしてない気がする。レクチャーでは難しい単語とか出てきて、わからないことはあるけど。
イギリス人や他の国の生徒と友達になれていて話せてるように傍から見えてるみたいで、日本人の子たちにはうらやましがられる・・・それはあんまり、居心地が良くない部分だけど。
だって友達は友達でしょ?もともと人見知りする人間だから頑張って打ち解けようとしてるし、わたしはどっちも好きになろうって心がけてるだけだから。
統計学のコンピューター実習の授業の後、生徒の減りだしたコンピューターラボで、親しくなったアルバニア人のアントネーラがわたしにしなだれかかってきた。疲労困憊、といった様子だ。
『ホタル〜DIDS意味わからないよ〜教えて〜〜〜』
『わたしもわかんないよ!アントネーラの方が英語わかるでしょ〜教えてよぉ』
『あーもう、使えないわぁ。いいよ、じゃあふたりでクリスに聞きに行きましょ』
『えー・・・絶対、授業あんま聞いてないと思う・・・』
『それはわたしも予想済み。もうこうなったら、3人でいちからやるわよ!』
案の定クリスはぜーんぜんわかってなくて・・・みんなが一生懸命やってる中、メール送ったりビリヤードのゲームしたりして遊んでたんだって・・・やってる人、他にもいるけどさぁ。
DIDSは放っておいたらほんとにやばいことになるって聞いてるから・・・早いうちに対処しないと!クリスにも後で仕込まないと、テスト落としたらやばいじゃない。
本日の最後の授業がDIDSのコンピューター実習だったから、後は寮に帰るだけ。
今日の夕ご飯は何にしようかなぁって考えながら、フロアのフロントドアを開けたらなんだか騒がしい。
騒がしいのはいつものことだけど、聞いたことのない声が聞こえる。誰かが友達連れてきてるのかな?
いつもの通りキッチンに飲み物を取りに行くと、そこにはケヴィンと見知らぬ日本人がいた。ケヴィンが友達連れてきてたのか、となんとなく思って。
『はろ〜』
『あ、ホターじゃん』
『ホター?』
やっぱり。ケヴィンにあだ名センスは絶対皆無だと思う。みんな初めてこの呼び名聞いたら「?」て顔をする。
『あ、ゴメンナサイ。わたしほたるって言うんだけど、ケヴィンが呼びにくいからって変なあだ名つけちゃった』
『なるほど。俺は夕吾。この名前は呼びやすいのかどーかわからないな。ユーゴって呼ばれたりユ・ゴって呼ばれたりするから』
『日本人って、名前で苦労するよねぇ』
そんな話をしながら、わたしは最近マイブームのクランベリー・ジュースをコップに注ぐ。ケヴィンは珍しくわたしに食べ物をねだってこない。というか、静かだ。どうした?とケヴィンの方を見ると、珍しそうな顔をしてわたしたちを見てる。
『なんで日本語喋んないの?』
『・・・なんとなく?』
『うん、なんとなく。だってケヴィンもいるしよ』
『オレ日本語聞きたい!何か喋って!』
ケヴィンの突拍子のない物言いには慣れてきたけど、わたしとこの夕吾さんて人は初対面だし正直何話していいかわかんない。ケヴィンは話し出すのを待って興味津々で見てるし・・・と、夕吾さんが話しかけてきた。
「何学部?」
「DEV。夕吾さんは、ケヴィンと一緒?」
「うんそう、ENV。さんはつけなくていいよ、どうせあんまり年変わらんでしょ」
「え、いくつですか?」
「敬語もいいって。俺は20です。ほたるちゃんは?」
「わたしは19なったばっかり」
「あーじゃあケヴィンと同い年なんだ」
『ほぁ〜〜〜すごい!何て言ってたんだ!?なぁなぁ、オレにも何か教えて!』
わたしと夕吾さんが話すたびに交互に見つめてきてたケヴィンが、目をきらきらさせながらわたしたちに迫ってきた。実は彼は好奇心が旺盛で、特に異国語とか異文化にすごい興味があるみたい。
それで結局、わたしと夕吾さんは「ありがとう」とか「こんにちは」とか基本的なことを教えたりしながら、少しずつ打ち解けていった。これがケヴィン効果なんだと思うんだよね。
『ケヴ、今日はもうこれくらいにして〜〜〜どうせ1分後には忘れてるでしょ』
『うーーーそうかも知れないけど!えっと・・・アリガト・ゴザマス?が「ありがとう」だろ?』
『はいはい、それもう5回目。じゃ、あとは夕吾に教えてもらってね〜わたしは退散します』
『えっ!こいつを俺にひとりで面倒見ろっていうのか!?俺の手に負えないよ』
『あはは、だいじょーぶだって〜今までもしてたでしょ』
『そーだよホター!もうちょっと相手しろよ〜』
わたしが席を立って、部屋に戻ろうとするとふたりから文句が上がって。でももう十分でしょ?
自分の興味あることにはほんと執着するんだからケヴィンは・・・。
『じゃーもう少しだけ、いいだろ?』
「っ!」
わたしが渋っていると、ケヴィンが立ってあたしの両肩をつかんで、もといた場所に座らせようとした。
まったく不意打ちのことで、わたしはびくっとして・・・きっと、傍目にも過剰反応してるように見えたよね・・・?
でもケヴィンは気づいてないみたいで、にかにか笑って、わたしの向かいで日本語講座の続きを待ってる。
よかった・・・気づかれてない。
別に悪気とかないのははっきりわかってる。けど不意に触れられたりすると、こうやってびくってしてしまう。
やっぱり治さなくちゃいけないなぁ・・・変な男嫌い・・・いつかとんでもない失敗やらかしそう・・・。
『わかったよー・・・じゃあもう少しだけだよ』
「・・・・・・」
『おう!じゃあさー・・・』
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