ガイ・フォークスの夜

用語

 

 

 

夕吾は?ってケヴィンに聞いても、さあ?忙しいんじゃない?としか返ってこない・・・使えないなぁもう!
ハロウィーンから5日が過ぎて、もんもんとしたまま11月5日をわたしは迎えていた。

今日は、ガイ・フォークスの日。
歴史的な祝日で、この日が近くなるとみんなこぞってあちこちで花火を上げるんだよね。
何でも、歴史上初めて議会に逆らう行動を起こしたガイ・フォークスって人が国会議事堂を爆破しようとしたらしく、その人の処刑されたのが11月5日。彼の死を忘れないための日、らしいけど・・・要は花火ぶっ放す日。
今日はキャンパス内にある公園で花火の打ち上げがあって、それをスチューたちと観に行く予定。
相変わらずため息の絶えないわたしは、その花火で少しは気が晴れるかもって少し楽しみにしてる。


『今日、すっごい寒そう〜〜〜』

『ほんとうだね〜・・・わたしやっぱりマティアスと行こうかなぁ』

『えーーー自分だけ彼氏と一緒に行くなんてズルイっ!』


朝ご飯を一緒に食べながら、フリーダはまだまだ眠そうな目をしてトーストをかじっている。
わたしは冗談で「彼氏と一緒に行くのズルイ」って言ったけど、単にフリーダが抜けちゃうのが嫌なだけで。別に割り込む気はないけど、でも彼氏と一緒に行くってことに羨ましさを覚えたわけじゃなかった。
またちゃんと誰かを好きになれる日って来るのかなって、わたしはミルクティーをすすりながらふと思う。


『いいじゃん、ホタルは。ユーゴ来るってケヴィン言ってたもん』

「ぶふっ」


うっそ・・・夕吾来るのっ!?
思いっきりミルクティーを噴き出しそうになったわたしに、フリーダは静かにティッシュを取ってくれて、わたしは何とか外に噴き出すのをまぬがれた。
ど、どうしよう・・・サフォーク来なかったら来なかったで鬱々してたけど、いざ会えるとなると・・・ちょっと心の準備が・・・!頭の裏っかわがひんやりとして、朝っぱらから思考停止しそう。


『何よぉその反応』

『いやいや、なんでそこで「いいじゃん」なわけ?』

『え?別に、何でもないけど?ただホタルが嬉しいかなぁって思って』

『え』


今、めちゃめちゃ濁点が付いた「え」って感じだった。いやいや、なんでわたしが喜ぶのよ?
でもなんだか追求するのも疲れて、わたしは残ったミルクティーをいっきにあおって席を立つ。
さっさと出る準備しよ・・・。深く考える余裕があったら、ちょっとは覚悟をしておこう・・・。

今夜、わたしの中で何かが変わるといい・・・。

 

 

 

今日はどこもかしこも花火のことで持ちきり。きっとクラスメイトともいっぱい会うんだろうな。
以前はさっさと夕吾に会って話したいって思ってたけど・・・今はなんか会う前に、人ごみではぐれてしまいたい気分でいっぱい・・・いっそそうしてしまいたいけど・・・でもそれじゃいつまで経っても前進しないし。
覚悟、決めないと。

でも、話って一体何すればいいんだろう。
あ・・・今やっと思った。そういえばわたし、何話すんだろう!?
ああああわたしってほんとばか・・・ここまで来て何話せばいいかわからないなんて!
でも、夕吾は以前ドアをノックしてきたり電話かけてきたりしてきてたから、何か言いたいことがあるはずで。
そ、それにもう怒ってはいないけど、イヤミのひとつくらい言ってやればいいのかな?
ああほんと、わたしって頭わるい・・・。
まぁいいや・・・何にせよ、勇気出して話しかけることが何かプラスに働くって思えばいいわけだから・・・。

 

 

 

花火は夜9時半から。
いつものスチュー、フリーダとわたしで、場所取りってことで9時には公園へ向かう。人ごみの中、わたしたちは後から来るケヴィンのスペースまで必死に確保する。とはいっても立ちスペースだけど。
ケヴィン・・・ほんと要領がいいのか、時間にルーズなのか・・・。実際、ただ今打ち上げ開始5分前。
でもケヴィンが来た時には、絶対に夕吾も一緒だ。
そう思うとよくわからない心拍数の上昇が始まる。焦ってるような、切羽詰ったような気持ちは恐れからなのか。はやる心に絶妙のタイミングで発せられたスチューの言葉は、飛び上がるには十分のものだった。


『あ、ケヴィンとユーゴ来た!』

「!」

『ごめんごめん〜場所取りゴクロウ!』

『もう、ズルイよ〜ケヴィン!ほんと寒かったんだから!もうすぐ打ち上げ始まるし』

『ごめんごめん、アリガト・ゴザマス!』

『何それ、わかんないよ』

『ニホンゴで「ありがとう」って意味!』

『ギリシャ語で言ってよ!わたし日本語なんてわかんないもん』


早速ケヴィンとフリーダが言い合いだして、それをスチューが苦笑して見守ってる中。必死に見ないようにしていた方向から、ついに声がかけられる。


「・・・よっす」

「・・・・・・・・・っす」

「・・・元気だった?」

「・・・ん」


ぎくしゃくしたわたしたちの間の空気。
5日前に会ったはずだけどその時は何も話さなかった。だから言葉を交わすのは実に3週間ぶりくらい。
寒さで息が白くなって、わたしはその消えゆくのを目で追って、本当は夕吾の方を見れないでいる自分をごまかしていた。

それ以外、再び会話のなくなったわたしたちの隙間を埋めるようとするかのように、花火の打ち上げが始まって。打ち上げ音と周りの歓声が、話さずにすむような空気を運んでくる。
こんなんじゃいけないのに・・・!安心しちゃいけないのに。そう思っても、いざ前にすると・・・どうしていいかわかんない。
肩を強く掴まれたことを思い出す、強ばった心。
手を優しく握られたことを思い出す、緊張がほぐれていくような体。
ほんとにわたし・・・どうすればいいんだろう・・・っ?

どん、どん、と打ち上げられて、真上で輝く色とりどりの光の花。
それらがどんなに綺麗でも、それが心に響くほどの余裕はわたしには全然なくて・・・。


「っ!」

「っと!」


うわ・・・やだ、ちょっと・・・押さないでっ!
ふと、人がどっと増して、わたしたちのパーソナルスペースはほぼゼロになる。
まるで混んだ電車の中で向き合ってでもいるように、わたしたちは周りの人に押されながらそこにいた。


「あ・・・ケヴたち、向こう流されてった・・・」

「やだ、うそ・・・っ」


やだやだ、こんなとこに夕吾とわたしだけ残していかないでよ・・・!
また怖さがじわじわとわたしの意識を占めてくる・・・やだ待って・・・まだ怖くなりたくない・・・まだ、夕吾と話してないよ・・・!お願いわたし、頑張って勇気出して・・・!
恐慌を起こしかける頭を叱咤して、手を握り締めて・・・わたしは思い切って夕吾に声をかける。


「あ、の・・・っ」

「・・・花火、見ないの」

「えっ!?」

「肩の力、抜けば?せっかく花火なんて上がってるのに。そりゃ日本のよりはるかにしょぼいけどな。ケヴィン達ともまた後で合流できるだろ」


さっきまでの気まずさは何のその。ケヴィン達が目の前からいなくなってしまったのも一瞬驚いただけで、また静かな目に戻って飄々としている夕吾に、わたしは拍子抜けしてしまった。
彼の調子は今までとは違っていて、マイペースで涼しげなものになっていて。・・・これがきっと、ケヴィンの言ってた夕吾の本性なのかもしれない。何度か見たその涼しげな態度は、はじめの頃とは全然違う。
そして彼の態度には、わたしを追い詰めるようなものはない。異性を見る目、異性に触れる手、浮ついた気持ち。そんなものとは無縁のような。

でもなんなの・・・ほんと、なんなの?
話さなきゃ話さなきゃって思ってて、いざ会えたら気まずい空気はほんの一瞬。夕吾の周りにはいつものマイペースな空気が流れ出して。わたしもうまくそれに乗せられて、その中でくるくる回されてるみたい。
話をすりかえられてるような感覚、すべて忘れちゃってもいいような錯覚が、わたしを鋭く甘く包む。
でも力が抜けたお陰で、怖い怖いと思い込んでた気持ちは少し落ち着いて・・・わたしは夕吾がするように、明るい夜空を見上げた。少しだけ、綺麗だと思えた。

それから15分くらいそうして、わたしたちは黙って花火を見上げていた。そして少しだけ、間隔があく。きっと玉を用意しているのかもしれない。 ふと、夕吾の目がわたしの目に入って。
彼は、口を開いた。


「冷たくしてやるから。だから俺好きになりなよ。他が見えなくなるくらい」


思わず見開いた目に、風が痛い。
他の男のように扱いはしないから、と言外に告げる夕吾が、とってもあったかく思えた。でもそんなの変。怖いでも嫌いでもなく、あったかい、なんて。
きっと、夜だし風が強くて寒いからそう思うんだ。
寒いから体が震えて、口から出てくる言葉まで震えてるんだ。


「・・・冷たくしてくれるのは、ありがたいよ。でも絶対、好きにならない。夕吾をじゃなくて、誰も」

「それじゃ意味ないじゃんかよ。治んないよ、一生」

「誰も夕吾に治してなんて言ってないでしょ。いい加減、ほっといて・・・」


心があったかく思えたのは、やっぱり体が寒いからだったんだ。だって今はこんなに冷え切ってる。
わたしはほんとに、どうしたらいいの?わかんないよ・・・。
夕吾と話をしたのは、前進だったかもしれない。でも結局、何も見えてこないままじゃない・・・。

 

ひときわ大きな花火がひとつ、頭上で明るく輝いた。

 

 


 

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