見えたこと、決めたこと

用語

 

 

 

夕吾のことが好きだと気づいた。半信半疑で実験したら、むしろ確信してしまった。
男の子が怖いはずなのに、夕吾だけ怖くなかった。むしろ傍にいてほっとした。
・・・嫌いだったはずなのに。怒っていたはずなのに。いつの間にこんな風になっちゃったんだろう。
わたしはちょっと、いやかなり戸惑っている。
今更そんな。意地悪な方法で気づかされたし、怒ったし、嫌いだったし、だからわたしもそれに対抗するような態度で接していたし。ほんと、今更だよ。それ以外の接し方って知らない・・・。
傍に・・・とか思う一方で、わたしは未だに自分の気持ちを認めきれてもいない。

それに・・・夕吾が言った通りになっているみたいで・・・それもイヤ。

 

 

 

『クリスマス休みはどうするのよ、ホタル』

『んー・・・?わたしはずぅーっと、ここー』

『えぇ!?じゃあ日本帰らないの!?ずーっとサフォークにいるの?どこか旅行とか行かないの?』


アントネーラは彼氏がアルバニアにいるから帰るんだよね・・・。
ていうか・・・生徒はほとんどみんな帰っちゃうんだよ・・・ここの冬休みはクリスマス休暇。家族や大切な人と過ごすためにあるんだから。クリスもスチューもフリーダもケヴィンも、ほとんどの日本人の子も帰っちゃう。
そりゃ、1ヶ月もここに缶詰は嫌よね・・・。わたしは夏休みに帰るから、ここにいるけど。
どっか旅行行ってもいいなぁ・・・クリスマスのキャンパスはほんとに寂しいって聞くし・・・。


『ここに残る人っているんでしょ?その人達とどこか行ったりしなさいね?』

『んー。そうするー・・・』

『何?さっきから。だらけてるじゃない』

『最近あんま寝てないのー・・・』


12月に入っていよいよ休みムードが高まってきて、どこも休暇の話題で持ちきり。
わたしはといえば、そんなのカケラもない。ただ、夜は考えこんでなかなか眠りにつけない日が続いている。
自分の中で覚悟がつかないだけ。覚悟というか認めるというか・・・プラス、恐怖症はどうするのか。
ただ単に認めたくないだけなのかな、好きって。でもなんで?・・・わかんないや。・・・意地?
こんなところで意地とか発揮してどうするのよ・・・。
気持ちがどうこうは置いといても、もし、今までみたくまた夕吾とみんなと一緒にいられるようになったら・・・夕吾となら、だんだん治せていけると思うんだ・・・男の子を怖いって思うこと。
やり方は・・・ムカついたけど、わたしのことを考えてくれてた気がするんだもん。後から考えれば。
怖がらせないように女扱いしなかったし。でもそのくせ、さりげなく優しくしてくれた。怖がらないよう最低限に、でもしっかりちゃっかり効果的に。


『あーもう、ぼけーっとして相手してくれない人と一緒にいてもつまんないわ。クリスのとこ行ってこよーっと』

『冷たい・・・』

『何も言ってくれないホタルが悪いんでしょ。何をずっと悩んでるかわかんないけどね、そんなぐだぐだ悩む前にさっさと行動しちゃった方がいいわよ。それから考えればいいじゃない。考えるより動いた方がいい時だってあるのよ』

『・・・・・・アントネーラ、すごい』

『そー?で?クリスんとこ行くけど、ホタルどうするの?』


すごい。わたし・・・目、覚めたかもしんない。
確かにわたし、うじうじ悩んでばっかりだ。答えが出るのかもわかんないのに、ひたすらうんうんうなって。結局ずーっとそのままで、過ぎてく時間を無駄にしているだけじゃない。
ならきっと、動いた方がいいのかもしれない。まず行動するべき時なのかもしれない。そしたらひとつふたつ、何かがきっと見えてくる。

・・・そうだよ。きっとそう。だって今まで、悩んでも悩んでも答えなんて出なかったじゃない。
言い訳も屁理屈も前提も、全部取り払った後にはわたしの純粋な願望や、気持ちだけがあるはずなのに。
・・・夕吾への気持ちを認めるも認めないもなかったんだ。ただ、そこに好きって気持ちがあって、それを認めるんじゃなくて受け入れるだけ。素直に受け止めればいいだけだったんだ・・・。
今まで思い悩んでいたのが嘘みたいに、すぅっとそれを受け入れられた。もうその気持ちに抵抗はない。
なんだか嘘みたい・・・今まで何意味もなく悩みこんでいたんだろう。
そして受け入れると同時に、本当にわたしの願うものが、はっきりと見えてきた。


『ちょっとホタル、聞いてる?』

『・・・聞いてる。わたし、行動してくる』


え?と聞き返してくるアントネーラに後でねと言い残して、わたしはそれまでくつろいでいた blend を出た。
きっと時は今。動く時が、今なんだ。

言い訳も屁理屈もすべて取り払って、好きという気持ちを受け入れた後に見えるわたしの願い、それは・・・。

 

 

 

前にもこういうことがあったけど、わたしが決心をした時に限って、夕吾はサフォークに来なくなる。
結局、アントネーラの言葉に動かされた日も会わなかった。


「・・・・・・」


ったく、何で来ないのよー!ふるふると震える拳をキッチンで我慢するわたし・・・。
決心した日からまた数日が過ぎて、もう今週も終ってしまった。


『ユーゴならエッセイだぜ〜、ホター』

『へっ?・・・あー、ケヴィン。そっか、学期末近いもんね・・・』


キッチンによろよろと入ってきたケヴィンを見て、彼のエッセイの様子が危ういことに気づく。日曜日なのにこの状態ってことは、こりゃー昨日徹夜したかな・・・?
そういえばわたしも来週提出の SAND のエッセイ、いい加減始めないといけないや。今週は NR のレポート提出があったし、最終日にはコース・テストもある。やっぱり学期末は色々と課題で忙しいよなぁ・・・。


『そのエッセイ、いつ提出なの?』

『んー?明日の4時』


そっか・・・てことは、夕方には課題は終ってるってことだよね・・・他のものがあるかもしれないけど。
夕吾はここに来るのかな・・・なんだか、それを待っているのすら惜しく思えてきた。

・・・直接、夕吾のいる寮に行こうか。

・・・うん、そうしよう。そういえば行ったことないし。
決めた・・・わたし、自分の気持ちを正直に言いに行こう。
今でも他の男の子は怖くなるけど、でも夕吾は怖くないんだってこと。嫌いじゃないこと。もう怒ってないこと。

わたしの願い・・・傍にいたい、傍にいてほしいって気持ちは否定しないけど、でもそれは必ずしも恋人としてってわけじゃない。今までのように、ふざけ合ったり一緒に遊んだり、それで十分。
ただ、「あなたは怖くないよ」は絶対伝えたいっていうか・・・それって変かなぁ。だって夕吾は、わたしのことを気にかけてくれていたから・・・これは絶対伝えたいって思うんだよ。
そして、この変な空気を取り払うために「また仲良くしよう」って。「恐怖症治したいし、夕吾達とならできると思う。だから手伝ってくれますか?」ってちゃんと伝えるんだ。

好きです、は言わない。前のようにただ一緒にいられればと思うし。
一番最初、何も気づいていなかった頃みたいに、笑い合って楽しかった時みたいに。その中で少しずつ、怖いって気持ちも治していければいい。

わたしの願いは、ただ傍にいることなんだから・・・。

 

 


 

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